抄録
【目的】DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子の欠損は、ヒトの遺伝性非腺腫性大腸癌の原因である。またホモ欠損タイプでは小児において白血病を発症することが報告されている。昨年の本大会において、MMR遺伝子を欠損したMlh1-/-マウスは、生後3ヶ月目からT細胞白血病を自然発生(61%)し、2週齢放射線照射で87%、10週齢照射では93%と、放射線照射によって高頻度に早期からT細胞白血病を発症することを報告した。本研究では、自然発生と放射線誘発T細胞白血病におけるIkaros変異の違い、並びに被ばく時年齢の影響について明らかにすることを目的とした。
【材料と方法】非照射群および2週齢と10週齢のMlh1-/-マウスにX線2Gyを全身照射した群に発生したT細胞白血病のIkaros変異タイプについて、ウェスタンブロッティングおよびシークエンス解析を行った。
【結果と考察】ウェスタンブロッティングによる解析の結果、Ikarosを発現していないT細胞白血病は、非照射群(71%、5/7)と2週齢照射群(85%、11/13)で多く、10週齢照射群(46%、6/13)では少なかった。シークエンス解析の結果、Ikarosタンパクを発現していない白血病は、照射や被ばく時年齢に関わらず、全てモノヌクレオチドリピートに生じたフレームシフト変異を持っていた。一方、Ikarosタンパクを発現している10週齢照射群の白血病では、IkarosのDNA結合領域に点突然変異が高頻度(71%、5/7)に観察された。以上の結果から、Mlh1-/-マウスのT細胞白血病では、被ばく時年齢に依存してIkarosの変異タイプが変動することが明らかとなり、年齢依存的に点突然変異が蓄積していくことが示唆された。