抄録
放射線は総線量が同じでも線量率によって致死作用の強さが異なることは培養細胞ではよく知られており、ATM遺伝子が関与していることもわかっている。我々は個体レベルで線量率効果を調べるため、キイロショウジョウバエ野生型Canton-S系統の3齢幼虫にガンマ線照射して生存率を測定する実験をおこなった。50%致死を惹き起こす線量(LD50)は線量率36 Gy/hr以上の高線量率照射では36.1±1.5 Gyでほぼ一定であるが、36Gy/hr未満の場合には近似式35.7×log60(照射時間(分))-4.5Gyで表されるという結果を得た。100%致死は、3時間以内の照射では総線量が55Gy以下で起きたが、5時間を超える照射では55Gy以上照射しても生き残るものが認められた。これらの結果はショウジョウバエでの線量率効果の存在を明確に示した。さらに、ヒトATMホモログであり、DNAの2本鎖切断修復に関与することが知られている遺伝子であるmei-41の突然変異系統では線量率効果が消失した。一方、ヒトXPFのホモログであるmei-9では野生型に比べて感受性が高いものの線量率効果は認められた。この結果から、mei-41が関与する2本鎖切断修復機構が働くことによって線量率効果が起きることが示唆された。