抄録
【目的】高LET放射線の生物効果に関して、同様のLET値のイオンビームであっても照射される核種が異なると、LET-RBE曲線の形が異なるという報告がされている。昨年までの本学会において、炭素、ネオン、シリコン、鉄イオンの4種類の加速核種において細胞致死及び突然変異誘発のLET-RBE曲線は加速核種が異なることにより異なることを報告した。さらに、hprt遺伝子座の欠失のパターンが加速核種により異なることも報告した。本年は、これまでと同様の加速核種及び細胞を用い、クロマチン誘発効果におけるLET・加速核種依存性を明らかにすることを目的とした。
【方法】細胞はヒト胎児皮膚由来正常細胞を用いた。加速核種は放医研HIMACで実験可能な炭素、ネオン、シリコン、鉄イオンを用いて、それぞれの核種において4から6種のLETについて調べた。クロマチン損傷は早期染色体凝縮法(PCC法)を用い、照射直後と、照射後24時間後の修復されずに残ったクロマチン切断について調べた。
【結果】照射直後に観察されたクロマチン切断誘発頻度のLET-RBE曲線はLET及び加速核種に関係なくほぼフラットな曲線を示した。一方、照射24時間後に修復されずに残ったクロマチン切断誘発頻度のLET-RBE曲線は、炭素、ネオン、シリコンイオンではそれぞれ85 keV/micrometer、105 keV/micrometer、113 keV/micrometer付近でピークを示す曲線を示したのに対し、鉄イオンでは200~400 keV/micrometerの範囲でLETの上昇と共にRBEも上昇した。これらの結果から、異なる加速核種の生物効果におけるLET・加速核種依存性は、照射後に起こる修復過程に密接に関係していると示唆される。