日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: BO-017
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突然変異と発癌の機構
Mutyh遺伝子欠損マウスにおける酸化ストレス誘発消化管腫瘍の解析
*續 輝久磯田 拓郎山内 一己中別府 雄作中津 可道
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キーワード: 活性酸素, 突然変異, DNA修復
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抄録
電離放射線や環境中に存在する化学物質さらには生体内での通常の代謝活動によって活性酸素が生じている。これらは様々な作用を生体にもたらすが、中でもDNAの酸化は突然変異や発がんさらには生体の老化に深く関わっていることが示唆されてきた。そこで活性酸素によるDNA傷害に焦点を絞り、8-オキソグアニンの排除・修復に関与する酵素の遺伝子群の中で、Mutyh遺伝子欠損マウスでの突然変異並びに発がんの解析を進めることで、酸化的DNA損傷による発がんを抑制する分子機構の解明を目指して取組んでいる。ラットにおいて腎発がんを誘発することが知られている酸化剤である臭素酸カリウムを、生後4週齢の野生型並びにMutyh遺伝子欠損マウスに20週間連続して飲水投与し、24週齢の時点での腸管における腫瘍の発生について解析を行い、Mutyh遺伝子欠損マウスの十二指腸・空腸で多数の上皮性腫瘍の発生を認めた。Mutyh遺伝子欠損マウスは消化管における酸化ストレス誘発腫瘍の分子病態を解析する上で有用なモデル系であると考え、酸化ストレスによって誘発される小腸腫瘍の発生に関わる標的遺伝子の検索、変異解析を進めた。62個の腫瘍組織からPCRでDNAを増幅して解析を行ったところ、ほとんどが、Apcあるいはβカテニン(Ctnnb1)の遺伝子にG:C→T:A型トランスバ-ジョン変異を有していた。以上の結果は、Mutyh遺伝子欠損マウスでは、酸化ストレスによりApcあるいはCtnnb1遺伝子のどちらかに突然変異が誘発されることによって、Wntシグナル伝達系の制御が破綻し、その下流にある遺伝子の発現制御異常がもたらされ、小腸腫瘍が発生することを示唆しており、最近の劣性の遺伝子大腸腺腫症患者でMUTYH遺伝子の変異が見出され、腫瘍組織においてAPC遺伝子に高頻度でG:C→T:A変異が検出されるとの報告と一致している。
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© 2007 日本放射線影響学会
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