抄録
我々の研究室ではESRを用いることによって、常温の細胞内において半減期二十時間以上の残存期間が長い新しいタイプのラジカルが存在し、その長寿命のラジカルが、短寿命のOHラジカルやHラジカルと同様に、突然変異や悪性形質転換の誘導に重要な役割を担っていることを発見した。放射線の照射前にジメチルスルフォキシド(DMSO)やL-アスコルビン酸(AsA)を細胞に処理することで、短寿命のラジカルの生成が消去されることは知られているが、放射線照射後二十分経過していても安定に存在する長寿命ラジカルは、DMSO処理では消去できないがAsA処理で完全に消去することが可能である。この照射後のAsA処理による長寿命ラジカルの消去に伴い、細胞死や染色体異常頻度を抑制できないが、突然変異や細胞がん化を抑制することができる。一方、DMSO処理は、放射線照射前に処理をした場合にのみ、染色体異常や突然変異の誘発率を減少させることができる。
これらのことから、我々は、染色体異常を誘導するラジカルと、突然変異を誘導するラジカルが異なり、前者はDMSOで捕捉される短寿命のラジカルで、後者はアスコルビン酸で捕捉される長寿命ラジカルであるとする仮説を提案する。
本発表では、この仮説の妥当性を考察する。