主催: 日本放射線影響学会
【目的】放射線による抗癌治療の成績向上を目指し、がん細胞における放射線致死抵抗化に関わる因子を、放射線応答への関与が報告されていないタンパクの中から探索することとした。本発表では、X線照射により量的変動を示す核内タンパクのプロテオーム解析を行い、得られた候補タンパクの中で、解糖系酵素として知られているアルドラーゼAに着目し報告する。 【方法】蛍光標識二次元発現差異解析法(2D-DIGE)を用いて、HeLa細胞の核においてX線被照射時に量的変動をするタンパクの網羅的解析を行った。次に、ヒト細胞におけるX線致死感受性への候補タンパクの関わりを調べるため、そのタンパクの遺伝子に関する情報を基に、RNA干渉法を用いて、タンパクの細胞内量を抑制した。 【結果と考察】HeLa細胞を用いた網羅的解析では、X線被照射24時間後に核内発現量が2倍以上増加する6種類のタンパクを見出した。その中に、通常は細胞質に存在すると考えられているタンパク、アルドラーゼAが含まれていた。そこで、RNA干渉法によりアルドラーゼAの細胞内量を減少させたところ、HeLa細胞のX線致死感受性化が見られた。一方、X線致死抵抗化した派生株とその親株のヒト細胞において、アルドラーゼAの細胞内量とX線致死感受性との間に正の相関が見られた。以上の結果は、アルドラーゼAがヒト細胞の放射線抵抗化に関わることが示唆され、解糖系酵素の多面的機能も示唆している可能性がある。また、放射線によるがん治療の際に、アルドラーゼAの発現レベルをあらかじめ抑制し治療の有効性を向上させる方法も示唆される。