抄録
DNA-タンパク質クロスリンク(DPC)は,電離放射線,紫外線,アルデヒド化合物,Pt化合物等により誘発される普遍的なDNA損傷であるが,その修復機構は明らかにされていない。当研究グループでは,DPCの修復経路を明らかにするため,大腸菌修復欠損株のDPC誘発剤に対する感受性を調べ,DPC修復にヌクレオチド除去修復(NER)とRecBCD依存的な相同組換えが関与していることを明らかにした。本研究では,NERによるDPC修復機構を生化学的に検討した。大腸菌NER欠損株のDPC誘発剤に対する感受性を調べた結果,DPC除去効率はクロスリンクタンパク質のサイズに依存することが示唆された。これをin vitroで検証するため,様々なサイズのペプチドおよびタンパク質(0.2-44 kDa)を含む50merオリゴヌクレオチド基質を調製した。 DPCはDNA中のオキザニンとペプチドあるいはタンパク質をクロスリンクすることにより導入した。32P標識した基質と原核生物のNER酵素であるUvrABCをインキュベートし,生成物を変性PAGEで分析した。その結果,UvrABCは,他のかさ高い損傷と同様に,DPCの5’側の8番目,および,3’側の5番目のリン酸ジエステル結合を切断し,クロスリンクタンパクを含む12merのDNA断片を生じることが明らかとなった。しかし,UvrABCのDPC-DNA に対する切断活性は,クロスリンクタンパク質のサイズ増加とともに低下し,14-16 kDa付近でほとんどゼロとなった。さらに,DPC修復に対するNERの寄与をin vivoで確認するため,DPC誘発剤であるformaldehyde(FA)で大腸菌を処理し,ゲノムDNAのDPCを分析した。野生株では,FA処理後のインキュベーションによりDPCの除去が認められたが,NER欠損株では認められなかった。