抄録
環境有害要因の神経系の発達に対する悪影響(発達神経毒性)を調べることは重要な課題である。環境有害要因の一つである放射線の人体、特に胎児の脳に対する放射線影響は、広島・長崎の疫学データより、器官形成期が終わった妊娠8~15週が最も高感受性であり、高頻度で重度精神遅滞症、小頭症の発生が報告されている。この時期はマウスでは妊娠13~13.5日(ラットでは妊娠15日)に相当し、人と同様に発生中の脳に対する放射線影響が最も感受性であることが示されている。しかしながら、マウスは胎仔が母親の胎内で発生し、脳は皮膚と毛で覆われているため、個体を殺さず生きたまま脳を観察することは不可能である。
メダカ後期胚期(st.28~30)は、器官形成期が終わった直後であり、メダカ中脳の視覚を司る視蓋の周辺部位が最も盛んに増殖する時期である。我々は以前の研究において、この時期の脳(特に視蓋)が放射線に対して高感受性であり、視蓋周縁部に放射線誘発アポトーシスが発生することを組織標本を作成しTUNEL, HE染色を施して確認した。メダカは、卵が体外で発生しかつ卵殻が透明で、生きたまま実体顕微鏡下で発生までの全過程を観察可能である。この利点を生かし、我々は最近、メダカ胚の発生中の脳で起こる放射線誘発アポトーシスを、アクリジンオレンジ蛍光染色により、組織標本を作成することなく、簡単、迅速に検出し、且つアポトーシスの数をカウントし定量化することに成功した。本大会ではこのアクリジンオレンジ染色法を用いて、メダカ胚の発生中の脳で起こる放射線誘発アポトーシスの発生からそれらが完全に貪食されて消去されるまでの全過程の時間経過毎の変化を、生きたまま実体蛍光顕微鏡下で可視化することに成功したので、これについて発表する。