抄録
紫外線損傷は、DNA修復・損傷応答の研究においてモデル損傷として重要な役割を果たしてきた。ゲノムDNAには様々な損傷が常に生じている。これら多様な損傷に対応できる修復機構の実体と、チェックポイント・アポトーシス・耐性機構獲得等の損傷応答の概略解明が、ここ十数年の研究で明らかにされてきた。これらの研究において、紫外線損傷は1)構造変化を誘発するタイプの損傷、2)複製を阻害するDNA損傷の2つの特徴から、それぞれ多様な基質に対応できる除去修復機構の解明に、また損傷応答のシグナル発振には損傷そのものでなく損傷に由来する共通中間体が認識されるという新たな概念の確立に重要な役割を果たしてきた。紫外線損傷が中心的役割を果たした理由の一つとして、紫外線により生じる損傷の実体が極めて明確である事があげられる。これに加え、紫外線が生命の誕生から現在に至るまで生命にとり脅威であり続けている事も重要な意味を持つ。太陽紫外線が強力な脅威である事は、XP患者さんの太陽光感受性からも明らかであり、本ワークショップにおいても植物の特集が組まれているように、野外の生物に取り重大な問題である。このような脅威の存在は、紫外線に対抗する手だてを現存の生物が完璧に備えている理由であり、同時に紫外線損傷に対する生体応答の解析が損傷応答に対する生物の基本戦略解明につながる事を示唆している。
紫外線生物学のもう一つの特徴は、DNA損傷に限らず生物の多様な光応答を研究対象とする光生物学としての一面である。生物は、エネルギー源として、また外環境シグナルとして、光を巧みに利用している。紫外線はこれら外環境光シグナルそのものであると同時に、可視光域の光に対し生物が示す多くの光応答とクロストークしている。環境ストレス応答研究と異なる一面を持つ。
以上2つの視点から紫外線生物学の現状を私なりにまとめ、今後の展望を考えてみたい。