抄録
【背景・目的】重粒子線の作用機構に対し一般的には、直接作用が重要であり、間接作用の寄与は小さいとされてきた。しかし重粒子線の細胞照射においても、間接作用を介した代表的なDNA損傷・8-hydroxy-2’-deoxyguanosine (8-OHdG)が有意に検出され、高LET領域での間接作用の重要性が示唆された。さらに同一LETにおいても粒子種により生成量が異なることが判明した(2007年度本大会発表)。本研究では上記の粒子種による生成量の相異の原因を明らかにするため、細胞内8-OHdGの分布を蛍光抗体法によって観察するための条件を確立し、それをX線と重粒子線照射細胞に適用した。
【材料・方法】ヒト肺癌由来細胞A549をカバーガラス上に培養して試料とした。蛍光抗体法の条件を求める為に、8-OHdGの標準生成系としてよく用いられるフェントン反応を用いた。8-OHdG修復を抑制するために、処理は2°C下で行った。試料は固定後、FITC標識抗8-OH-Gua抗体(Kamiya Biomedical Co., USA)で処理した。X線照射はソフテックスX線発生装置(58kVp)を用い、重粒子線は放射線医学総合研究所の重粒子線がん治療装置(HIMAC)から供給された炭素イオン線(290MeV/u, LET 13keV/μm)を利用した。線量は1~200Gyの範囲で行った。
【結果・考察】フェントン反応による条件検討で、固定には4%PFAやMeOHではなく、ブアン液が適している事が確認された。X線照射の場合、25Gyの低線量で8-OHdGが有意に検出された。通常8-OHdG検出に用いられるHPLC-ECD法では、数百Gyの線量が必要とされたことから検出感度の大きな改善である。X線誘発された細胞内8-OHdGは、細胞核全域にわたり均一に分布していた。この観察結果は、X線が低LET放射線であることから予想された結果であった。一方、炭素イオン照射の予備実験で誘発された細胞内8-OHdGは、X線のそれとほぼ同様、細胞核全域にわたり均一に分布していた。今後線量をさらに変えて生成分布を観察したい。