抄録
DNA損傷チェックポイントの誘導には、自己リン酸化ATMを基点としたチェックポイント因子の核内フォーカス形成が重要であることが示されている。チェックポイントの活性化とフォーカス形成との関係を正当に評価するためには、フォーカス形成因子の分子数を反映するパラメーターを用いる必要があり、フォーカス数だけではなく、フォーカスの面積および輝度を考慮した定量的解析が必要である。しかしながら、このようなパラメーターを用いた研究はいまだ皆無である。そこで本研究では、蛍光顕微鏡下で取得されたデジタル画像をもとに、画像解析ソフトにより算出される個々のフォーカスのIntegrated Density(=面積×平均輝度)から、細胞のもつSum Of Integrated Density(以下SOID)をフォーカス形成因子の分子数に比例するパラメーターとして求め、G2/Mチェックポイントの誘導に必要十分なフォーカスの定量的解析を目的とした。
まず、正常ヒト二倍体細胞HE49を用いて、フォーカスを持ちながらもG2/Mチェックポイントが誘導されないX線線量を調べた。その結果、照射2時間後において、0.08Gy以下ではMitotic Indexに有意な差が見られないことを確認した。そこで、X線0.08Gy照射2時間後に、分裂前期に進行していた細胞における、リン酸化H2AXフォーカスのSOIDを算出した結果、平均3846、最大で10987であった。また、個々のフォーカスのIntegrated Densityは最小で1000程度であった。以上の結果から、SOIDがフォーカスのチェックポイント誘導能を評価する定量的な指標になりうること、またG2/Mチェックポイント誘導におけるフォーカスのSOIDには閾値があり、およそ11000未満ではフォーカスを持っていてもチェックポイントが誘導されないことが示唆された。