抄録
電離放射線によりDNAの二重鎖切断(DSBs)が起きるとクロマチン蛋白のひとつであるH2AXが活性化ATMによってリン酸化されフォーカス形成することが知られている。このフォーカスはDSBの修復に伴って消失していくが、一部のフォーカスは長時間残存し続け、G1期で細胞周期を止め細胞を老化様増殖停止に誘導することが報告されている。そこで、我々は放射線照射後の残存フォーカスを持つ細胞の割合で細胞生存率を予想できるかどうかを検証するために実験を行った。
実験にはヒト正常二倍体細胞(HE49およびBJ)とヒトがん細胞(HeLa、U251、T24、およびH1299)を用いた。細胞に対しX線を照射した後、コロニー形成法を用いて細胞生存率を求めた。また、リン酸化H2AXフォーカスは、照射後にスライドガラス上で培養した細胞を蛍光抗体染色をすることによって可視化し蛍光顕微鏡下でリン酸化H2AXフォーカスを持つ細胞の割合を調べ、生存率との相関関係を調べた。
その結果、X線照射後に分裂を停止した細胞ではリン酸化H2AXフォーカスの残存が観察されることが判った。特に0.1%以下の低いコロニー形成能となった高線量を照射した細胞では照射5日後でも90%以上の細胞でリン酸化H2AXフォーカスが観察された。残存リン酸化H2AXフォーカスを持つ細胞の割合はX線に対する生存率と相関関係を持っていることが示唆される結果となった。以上の結果より、X線照射後、長期間残存し続けるリン酸化H2AXフォーカス頻度を細胞の放射線感受性を推測する指標として用いることが可能であり、放射線治療時の線量評価に有用な手法であると考える。