抄録
DNA二本鎖切断修復機構(DSBR)の主要な経路としてはNHEJ(non homologous end joining)とHR(homologous recombination)が知られており、特に哺乳類ではNHEJが修復の主要な経路であることが判明している。またDSBRの過程では遺伝子の欠失、変異が生じることが報告されている。しかしながらこれらは培養細胞を用いた実験によって明らかになったことであり、組織・胚発生に焦点をあてた個体レベルでの解析にまでは至っていない。そこで我々は個体レベルでの応用を目的としてメダカでの蛍光タンパク質GFPを指標にしたDSBRの解析を目指している。現在個体での解析の前段階として培養細胞で解析を行っている。解析にはDRGFPを利用したHR検出システム[Pierce et al, 1999]と、Tetracyclin誘導発現系を利用した遺伝子欠失検出システム[野田朝男等、第49・50回放射線影響学会]を用いた。両システムともGFP蛍光による検出であるためGFP発現細胞の計測によって細胞単位での修復、欠失頻度を定量・可視化することが可能であり、顕微鏡下で生きた状態の個体観察への利用も期待される。HR検出システムの実験よりメダカ細胞においても他の哺乳類細胞と同様に増殖期の細胞においてHRによる修復が低い確率でのみ起こることが明らかとなった。また放射線高感受性変異体メダカ系統での実験から野生型メダカと比べ顕著なHRの減少が確認された。同時に切断部位の修復後配列の解析を行っている。一方、遺伝子欠失検出システムの利用では放射線照射線量に比例してGFP蛍光の増加する安定株を樹立している。野生型と放射線高感受性変異体メダカの比較を中心に両システムともメダカにおいて利用可能であり、培養細胞レベルでのDSBRの可視化に成功したことを報告する。