抄録
非相同末端結合修復(Nonhomologous end joining; NHEJ)は、放射線によって誘発されるDNA二本鎖切断の修復において、細胞周期のG1期に特に重要な役割を果している。我々はヒトリンパ球系の血球細胞Nalm-6を用いて、非相同末端結合修復に関与する酵素を欠損した細胞を樹立した。Nalm-6は、ニワトリのリンパ球細胞DT-40と同様、頻度の高い相同組換能を持つ細胞で、この性質を利用した遺伝子ノックアウトが行われている。しかしNalm-6は、化学薬剤(ミモシン、ノコダゾール法、ダブルチミジン法等)による細胞周期同調が困難な細胞である。そこで、我々はセルソーターによって、任意の細胞周期分画をソーティングする方法を開発した。本方法は、細胞周期のG1期からS、G2、M期と進行するにつれて、細胞の大きさと、その細胞器官の複雑さが増加する特質を利用するものである。これらの値は前方散乱(FSC)と側方散乱(SSC)に夫々反映されることが知られている。本方法を用いて、G1期に分画された非相同末端結合修復欠損細胞であるNalm-6及びニワトリのリンパ球細胞DT-40は、両者とも放射線照射に対してS/G2期の細胞より高感受性となった。さらにDT-40において、リン酸化-H2AXのFoci形成を調べると、化学薬剤(ミモシン、ノコダゾール)を用いた場合に比べて、非照射時のバックグランドレベルが著しく低下した。このことから、細胞周期依存的なDNA修復の研究において、本方法を用いた細胞周期同調細胞は、他の細胞周期同調法に比べて、大きな利点があると考えている。