抄録
放射線の影響は、そのエネルギーに正比例しているという古典的な考えとは逆に、放射線誘発適応応答(あらかじめ低い線量で照射しておくと、その後の高い線量での照射に対して抵抗性が誘導されるという現象) の存在について述べた多くの研究が有る。 適応応答の効果の誘導に不可欠な条件の研究は、放射線のリスク推定に対して重要な科学的根拠を提供し、新たな生物学的防御機構への重要な洞察を提供する。したがって、適応応答に関する研究は、国民の健康と学術的な研究の両面できわめて重要である。一連の進行中の研究の中で、LETの高い重粒子線での照射による適応応答の誘導が可能かどうか、次に示す3つの事について調べた。1) 既知のX線誘導適応応答は、重粒子線によって引き起こされた成長遅延、死亡、奇形などの有害な影響を減少させることができるのか。2)ある一定の低線量での重粒子線の照射は、高線量のX線によって引き起こされた有害な影響に対して、適応応答を誘導できるのか。3) ある一定の低線量での重粒子線の照射は、高線量の重粒子線によって引き起こされた有害な影響に対して、適応応答を誘導できるのか。
使用したマウスはC57BL/6Jで、in vivoでの実験ではyoung adultマウスを、in utero (子宮内)での照射実験では胎児マウスを使った。重粒子線は、炭素イオン線(290MeV/u, mono-beam, LET約15 keV/μm)、シリコンイオン線(490MeV/u, mono-beam, LET約55 keV/μm)、鉄イオン線(500MeV/u, mono-beam, LET約200 keV/μm)の3種類を使用した。
この報告の中で我々は、既知のX線誘導適応応答が重粒子線によって引き起こされた有害な影響を減少させることができるかどうかという、最初の問題に対する答えを提示する。