抄録
1.はじめに コンテンツ産業が経済の牽引力として注目されて久しい(Scott, 2000;2011)。ハリウッド映画産業では、集積としてのハリウッドが依然として競争優位を維持しつつ、映画プロジェクトはグローバル化しているという二面性を持っている(原, 2009)。その背景には映画の重要な要素となっているVFXを担うことの出来る米国外の後発の企業とクラスターの成長による競争の拡大、ハリウッド映画プロジェクト誘致のための税制優遇などの政策支援をめぐる国や都市の間の競争の激化がある。映画製作はプロジェクトベースを基本とし、プロジェクトの遂行にはプロデューサー、監督、VFXスーパーバイザーなどから構成される時限組織であるプロダクションが重要な役割を果たし、プロジェクト毎にその必要に応じて異なるプレーヤーが集められ(Grabher, 2002)、国境を超える企業やクラスター間のコーディネートも時限組織が行ってきたが、近年はVFX企業自体が海外に進出し企業内空間分業で対応する新たな動きが広がってきている。本研究はコンテンツ産業の代表格であるハリウッド映画、その特にVFXを取り上げ、プロジェクトベースのコンテンツ生産には、どのような空間形態といかなる組織形態が選ばれるのか、また選ばれる際の基準は何かを明らかにしていくために必要な論点を、従来の関連する研究を整理し実際のハリウッド映画のVFX事例を紹介する中で抽出することを目的とする。2.時限組織と企業 コンテンツ産業は高コストの先進国大都市に集積する傾向が集積論をベースに数多く報告されてきたが(Scott, 2000;半澤2001)、プロジェクトがグローバル化する中で、いかに集積内の企業と集積外の企業が選ばれるのかを説明する必要があり、原(2009)は時限組織によって企業が選ばれる意思決定をプロジェクトの空間デザインとして提示し、クリエイティビティとコストの要因が組み合わされている実態を分析した。近年のVFXの企業内空間分業の動きを説明するためには、マッシィの空間的分業論を参照しつつ、コンテンツビジネスの市場の需要特性を踏まえ、時限組織と企業がそれぞれ、いかにグローバルプロジェクトの課題を処理しできるのかを比較分析する必要がある。3.ハリウッド映画のVFXと分業 ハリウッド映画におけるVFXはアビスなどの初期の映画から分業が基本であった。原(2010)が示したように時限組織が中心となって集積内あるいは集積を超える企業の間で分業して行うことが通例となっている。これに対し、近年米国からILMがシンガポール、Rhythm and Huesがインドなどに進出、英国からもDouble Negativeがシンガポールに進出し、企業内空間分業を行っている。ドイツ発のPixomondoはLAにベースを移して中国、英国、カナダ等も含む国際ネットワークを構築している。本研究はこうした傾向を踏まえ、企業主導の国際的企業内空間分業と時限組織主導の国際的企業間ネットワークのメリット・デメリットを考察する試論を提示する。