抄録
骨肉腫は、小児期に多く発症する悪性の腫瘍であるとともに、放射線による内部被ばくや、放射線癌治療後の二次癌としても発症することが知られている。組織学的解析から、骨肉腫の大部分は骨芽細胞の異常に由来すると考えられているが、放射線で誘発された骨肉腫の分子生物学的特徴はあまり明らかにされていない。そこで本研究は、放射線で誘発されたラット骨肉腫における遺伝子の発現異常を網羅的にとらえることを目的とした。骨親和性放射性核種の1つであるプルトニウムを注射投与したラットに誘発された骨肉腫について、マイクロアレイを用いた遺伝子発現プロファイル解析を行い、発現プロファイルを骨肉腫と正常骨芽細胞間で比較した。さらに、骨肉腫において見られた遺伝子の異常を、定量RT-PCR、イムノブロット、免疫組織化学染色法を用いて解析した。遺伝子の発現プロファイルを骨肉腫と正常骨芽細胞間で比較した結果、骨肉腫において異常な発現をしている遺伝子を多数見出した。これらの遺伝子の中には、細胞接着、細胞分化、Srcチロシンキナーゼ、Wnt/β-cateninシグナル伝達経路や腫瘍に関連する遺伝子等、骨形成や癌化に重要な役割を果たしている遺伝子が含まれていた。また、骨肉腫におけるβ-cateninの細胞核および細胞質への移行、不活性化型(リン酸化)β-cateninの減少、さらには、同タンパク質の主要な抑制因子であるGSK-3βの著しい減少を観察したことから、放射線誘発骨肉腫においてWnt/β-cateninシグナル伝達経路が活性化していることが示唆された。