抄録
プロテオームやDNAアレイの技術を用い生物反応をシステマティックに解析することが盛んであるが、これらの手法は定性的であり、バックグラウンドレベルの微妙な影響を評価する低線量・低線量率の放射線の生物影響には不向きである。本研究ではアロ抗原に対する免疫応答における低線量率ガンマ線連続照射の影響を評価するため、同質の実験を繰り返し行いメタアナリシスの手法を用いて統合することにより統計的検出力を上げるとともに、複数のリスク指標を主成分分析で解析することにより、通常の生物学的方法では検出できない差異を統計学的に検出することを試みた。C57BL/6マウスをアロジェニックな肥満細胞腫P815を腹腔内に移植することにより免疫した。P815 移植の7 日前から屠殺するまで17 日間にわたりガンマ線照射室内でマウスを飼育することでガンマ線の連続照射を行った。マウスは10 日後に屠殺し、血清中のP815 に対する抗体価、脾臓細胞のポピュレーション、P815 特異的キラー活性、脾臓細胞のmRNA の発現を定量化した。3-200μGy/hの範囲の3 種類の線量率で照射を行い、同質の実験を10 回繰り返し、それぞれの実験における照射群とバックグラウンド対照群との間の平均値の差について、メタアナリシスの手法を用いて統合した。脾臓細胞は放射線照射により有意に増加し、特にCD8陽性T 細胞の増加と非リンパ球細胞の増加が顕著であった。脾臓細胞の産生するサイトカインではTNFαとCSF-2の発現が照射により亢進した。これらの結果について、主成分分析による複数リスク指標の統合を行ったところ、抗体産生やポピュレーションの変化が照射に連動して変化していることが示唆された。以上の結果より、低線量・低線量率域における微弱な放射線生物影響を評価する際に統計学的手法による統合が有用であることが示された。