日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第51回大会
セッションID: DP-1
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低線量・低線量率
マウスの個体発生および神経冠細胞の分化に対する低線量鉄イオン線の影響について
*広部 知久江口ー笠井 清美村上 正弘菅谷 公彦
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抄録
鉄イオン線(500 MeV/n, LET=220 keV/μm)を妊娠9日目のC57BL/10JHir系統マウスに低線量域を含め様々な線量で照射し、個体の発生および神経冠細胞の分化に対する影響を調べた。その結果、0.3 Gyから出産率が低下した。ガンマ線照射では1 Gyまで出産率の低下が見られなかったので(Hirobe, 1994)、鉄イオン線はガンマ線に比べてかなり致死効果が強いことがわかる。また、離乳率も0.4 Gy照射群で低かった。ガンマ線照射ではこのような離乳率の低下は1 Gyまでみられなかった。鉄イオン線で神経冠細胞の分化が抑制され、メラノブラスト、メラノサイトが欠損すると腹部中央や尾端に白斑を生じる。この腹部白斑の頻度については、鉄イオン線では0.2Gy照射群で44%であり、ガンマ線では0.5 Gy照射群で44%であった。また、白斑面積は0.2 Gy鉄イオン線で4.6 mm2で、0.5 Gyガンマ線で4.4 mm2であった。したがって、鉄イオン線はガンマ線より神経冠細胞の分化抑制効果が強いと考えられる。次に、照射9日後の胎生18日に帝王切開で胎児を取り出し、生存胎児数、体重、発生異常、皮膚の毛球メラノサイトの分化等について調べた。鉄イオン線照射個体では0.75 Gyで一腹あたりの胎児数が減り、体重も0.5Gy照射群から減少した。四肢の奇形や尾の折れ曲がり、小眼、尾や四肢の付け根の内出血等の発生異常は0.1 Gyからみられ、線量に応じて増加した。また、皮膚の毛球メラノサイト数は、0.1 Gy照射群から背側も腹側も有意に減少し、線量に応じてさらに減少した。これらの結果から、鉄イオン線は低線量域でもマウスの発生に影響を与え、四肢、尾、眼、血管等の形成異常や神経冠細胞の分化抑制を引き起こすと示唆される。
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© 2008 日本放射線影響学会
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