抄録
Basic fibroblast growth factor (bFGF) は、細胞の増殖、分化、細胞遊走や血管新生を促進する成長因子で、bFGF投与により放射線照射後マウス小腸の陰窩生存が増強されることが報告されている。今回我々はbFGF前投与のラット小腸急性放射線障害への効果を経時的に調べた。6週齢の雄性ウィスターラットを用い、照射25時間前に4 mg/kg bFGFを腹腔内投与した。8Gy X線全身照射後3, 6, 16時間, 1, 2, 3, 5日の空腸、結腸を摘出してHE標本を作製した。空腸粘膜の絨毛と陰窩の長さを測定し、空腸陰窩あたりのアポトーシスとマイトーシス数を計測した。免疫染色にてKi-67の発現を調べた。ウェスタンブロットでPCNA, p53, p21, baxの発現を調べた。空腸の絨毛の長さは、コントロールでは照射後1, 2, 3日と低下するのに比べ、bFGF投与群では照射後2日までコントロールよりも高い値を示した。陰窩の長さも同様の動きを示した。空腸陰窩あたりのbFGF投与群の放射線誘発アポトーシス数は、照射後3時間でコントロールの29%、6時間で11%に抑制された。bFGF投与ラットのマイトーシス数は照射後2, 3, 5日でコントロールより高値であった。bFGF投与群の空腸のKi-67陽性細胞はコントロールに比べて増加していた。bFGF投与群のPCNAの発現は、照射後2日でコントロールより有意に高値であった。照射後3時間、6時間のp53の蓄積、p21, Baxの発現の増加は、bFGF投与で抑制された。bFGF前投与はステムセルを含む小腸陰窩細胞の放射線誘発アポトーシスを抑制し、その後の増殖を促進することで急性放射線障害を抑制することが確認された。