抄録
1.研究目的
重粒子照射を受けたタマネギ根端細胞の小核発生頻度は線量が増えるにつれて一旦増加し、減少に転じることが、過去の研究成果によって明らかとなった。これは、線量に比例した頻度で小核と致死損傷が同時に発生すると仮定すれば説明でき、この仮定に基づくモデルに従えば、1飛跡あたりの小核と致死損傷の発生頻度はともにLETの2乗に比例すると推定される。
モデルの検証のため、致死損傷の発生頻度を単独で見積もりたいと思った。放射線を照射した発芽タマネギ種子の根の伸長の減少率は、根端細胞の生存率に比例するのではないかと考えた。
シャーレに水で湿らせたろ紙を置き、その上に種子を置いて、タネとタネの間を棒状のもので仕切り、斜めに立てかけておくと、根はほぼ斜め下方に伸びるので、比較的根の長さが測りやすくなることがわかった。
2.方法
放医研HIMACで、発芽タマネギ種子に対し400 MeV/u C、400 MeV/u Ne、490 MeV/u Si、 500 MeV/u Ar、500 MeV/u Fe、の照射を吸収体なしで照射し、以後の根の長さを経時的に測定した。
3.結果
根の伸びは高線量でも止まることがなかった。根の伸びには、細胞の生存率だけでなく、細胞の大きさの変化や増殖率が関係する可能性があるので、顕微鏡による細胞の形態と分裂細胞の割合の観察を行ったが、放射線の照射に伴って、細胞の形が大きく変化しているとか、分裂中の細胞が非常に増えているなどの顕著な変化は見られなかった。種子ごとに根の伸びのばらつきはあるが、平均的には線量とともに減少し、線量Dにおける長さL(D)の平均は、L(D)=L (∞)−Aexp(-αD) に従うように線量の増加とともに一定値に近づいた。同じ吸収線量で比較した場合、αのLET依存性はあるが、小核発生頻度に比べると緩やかであった。