抄録
【目的】近年、循環器疾患などのがん以外の死亡についても原爆放射線被曝線量との関連が示唆されている。メタボリックシンドロームは循環器疾患の重要なリスクであるため、広島原爆被爆者において放射線被曝線量とメタボリックシンドロームの有病率との関係について調べた。
【方法】1995年から1997年までの間に被曝群とそのコントロール群からなる成人健康調査に参加し、ウエスト周囲径(臍周囲径)を計測した年齢50歳以上の男女3166名(男性1046名, 平均年齢;64.8歳、女性2120名;68.5歳)に対し、放射線被曝線量とメタボリックシンドロームの有病率との関連を調べた。メタボリックシンドロームの診断はNCEP基準及び日本の診断基準を用いた。ただし、腹部肥満はアジア人向けの基準(腹囲 男性90cm以上、女性80cm以上)を使用した。
【結果】メタボリックシンドロームの有病率はNCEP (National Cholesterol Education Program)基準では男性で22.6%、女性で34.2%、日本基準では男性で10.0%、女性で21.5%であった。単変量及び多変量ロジスティック回帰分析の両方において、放射線線量とメタボリックシンドロームの有病率との間には有意な関連は認めなかった。
【結論】本調査では放射線被曝線量とメタボリックシンドロームの有病率との間に統計学的に有意な関連はみられなかったが、今後被爆時年齢によるリスクの違いなどの検討が必要であると考える。