抄録
鉱山労働環境における高レベルのラドン被ばくは、肺癌リスクになっていることが明らかにされていたが、一般住宅の屋内ラドン濃度が肺癌リスクになるか否か明確ではなかった。近年、屋内ラドンと肺癌に関する症例対照研究の大規模なプール解析が実施され、100Bq/m3といった屋内ラドン濃度であっても、有意に肺癌リスクが上昇することが明らかとなってきた。我が国の屋内ラドン濃度は、従来世界平均の半分以下と評価されてきたが、近年、高密閉・低換気率の省エネ住宅が普及し、屋内ラドンの上昇が憂慮されている。そこで、本研究では、(1)全国3900家屋の屋内ラドンを測定し、もって屋内ラドンの全国人口加重平均値を求め、(2)この値を用いて米国EPAのラドン肺癌推計モデルを使って、我が国の屋内ラドンの喫煙者、非喫煙者別の肺癌寄与リスクを推計することを目的とする。
ラドンは、受動的ラドン・トロン分別測定器(RadoSys社)を半年間居室ないし寝室に設置し、装置を回収後、日本分析センターで計測する。アンケート調査を同時に行い、家屋構造、換気の多さ、屋外ラドン濃度レベル(3段階)などと屋内ラドンの相関を検討する。今回の報告では、H19年10月~H20年2月に測定した820軒およびH20年3月~H20年8月に測定した900軒の解析結果を報告する予定である。現時点では、初年度の第一回820軒の測定結果のみであり、28都府県をカバーするだけである。820軒の屋内ラドン濃度は、対数正規分布と矛盾せず(Kolmogorov-Smirnov Test, p = 0.355)、算術平均(標準偏差)は、21.3 Bq/m3 (21.0)、幾何平均 (幾何標準偏差)は、16.9 Bq/m3 (1.95)、最小値 0.3 Bq/m3、最大値 437.9 Bq/m3であった。この値は、1993年から96年に放医研が行った全国調査値に比し、有意に上昇している。