抄録
色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum; XP)は日光過敏症、高頻度の皮膚がんを主徴とする常染色体劣性遺伝病で、8つの遺伝的相補群からなる。バリアント群XPは、他の7つの相補性群とは異なり、ヌクレオチド除去修復は正常で、損傷乗り越え複製(translesion DNA synthesis; TLS)型DNAポリメラーゼの一つであるDNAポリメラーゼ・イータ(Polη)に欠損を持つ。Polηは、紫外線によって生じる主要なDNA損傷、シクロブタン型ピリミジン二量体に対して正しいヌクレオチドを重合し、変異を誘発しないTLSを行う。一方、PolηのパラログであるPolιはもうひとつの紫外線損傷である(6-4)光産物に対してヌクレオチドを重合する活性を有するが、その欠損による疾患は知られておらず、生体内での役割はほとんど分かっていない。我々のグループではPolηおよびPolιの生体内での役割を明らかにするために、Polη、Polι単独および二重欠損マウスを作出し、解析を行っている。これまでにPolη欠損マウスはUVB照射により野生型マウスに比べて、高頻度の皮膚腫瘍発生が認められ、Polη、Polι二重欠損マウスではPolη単独欠損マウスよりも腫瘍発生時期が若干早くなること、またPolηの欠損では上皮系腫瘍、Polιの欠損では間質系腫瘍の発生頻度が上昇することを報告している。
今回、Polη、Polι両ポリメラーゼの欠損による紫外線誘発発がん機構をより詳細に解析するために、紫外線照射により表皮のゲノムDNA上に生じる突然変異発生頻度および変異スペクトラムの解析を、大腸菌rpsL遺伝子を突然変異検出マーカーとするトランスジェニックマウス(HITECマウス)を用いて行った結果を紹介する。