日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第51回大会
セッションID: S1-5
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放射線発がんの基盤を形成する遺伝子・細胞・組織の応答
酸化ストレス誘発発がんの抑制に関与する分子機構の解明 -Muthy 遺伝子欠損マウスにおける消化管発がんの解析を中心として
*續  輝久
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抄録

電離放射線や環境中の化学物質さらには生体内での通常の代謝活動によって活性酸素が生じている。これらは様々な作用を生体にもたらすが、中でも酸化的DNA損傷は自然突然変異を引き起こし、自然発がんの主要な原因と考えられている。酸化的DNA損傷の中で、グアニンの酸化体である8-オキソグアニン(8-oxo-G)はシトシンと同程度にアデニンとも対合できることから、DNA中の8-oxo-Gは強い突然変異原性を示し、G:C→T:A変異を引き起こす。またアデニンの酸化体2-ヒドロキシアデニン(2-OH-A)はグアニンと対合し、8-oxo-Gと同様にG:C→T:A変異を引き起こす。ヒト・マウスではMTH1がヌクレオチド・プール中に生じた8-oxo-dGTP、並びに2-OH-dATPを分解することでDNA複製の際に酸化ヌクレオチドがDNAへ取り込まれるのを防ぐ。一方、OGG1はシトシンと対合したDNA中の8-oxo-Gを取り除き、MUTYHは8-oxo-Gと対合したアデニン、および、グアニンと対合した2-OH-Aを除去することで、これら酸化的DNA損傷による突然変異を抑制している。これまでにMth1, Ogg1, Mutyh等の遺伝子欠損マウスを樹立して解析してきた。その過程で、Mutyh遺伝子欠損マウスの消化管においてG:C→T:A変異の頻度が上昇すると共に、消化管がんの発生頻度が上昇していることを見出した。最近、劣性の家族性大腸腺腫症 (MAP: MUTYH-associated polyposis) 患者でMUTYH遺伝子に変異が見出され、ほとんど全ての事例で腫瘍組織のAPC遺伝子にG:C→T:A変異が検出されることが報告されているが、Mutyh遺伝子欠損マウスの表現型はMAP患者の呈する症状とよく一致し、Mutyh遺伝子欠損マウスはMAPの分子病態を解析する上で有用なモデル系と考えられる。

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© 2008 日本放射線影響学会
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