日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: OD-7
会議情報

マイクロビーム
放射光X線マイクロビームを用いたバイスタンダー細胞死の解析
*冨田 雅典前田 宗利前澤 博宇佐美 徳子小林 克己
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
放射線誘発バイスタンダー応答は、放射線が直接ヒットした細胞の周辺に存在する放射線がまったくヒットしなかった細胞にも、放射線がヒットした細胞と類似の生物影響が誘導される現象である。これまでのバイスタンダー応答研究は、主に高LETのα線等の粒子線を用いたものであり、低LETのX線やγ線によるバイスタンダー応答については十分明らかになっていない。本研究は、細胞生存率を指標として、放射光X線によるバイスタンダー応答の線量依存性と伝達方法を解析した。
細胞にはヒト胎児肺由来線維芽細胞WI-38を用い、照射1週間前にディッシュに播種し、コンフルエントにした。照射は、高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・放射光科学研究施設(茨城県つくば市)の放射光X線マイクロビーム照射装置を用いて行った。細胞核のみに、直径5 μm×5 μm の5.35 keV単色X線を照射した。照射24時間後にディッシュ上すべての細胞を回収した後、希釈してシャーレに播種し、形成したコロニー数から細胞生存率を求めた。各種阻害剤、スカベンジャーは照射2時間前に添加した。
マイクロビームをディッシュ上約70万細胞の内、中心の5細胞にのみ照射した場合、0.25-1.5 Gyにおいて細胞生存率は85%まで低下したが、2-5 Gyでは生存率の低下は認められなかった。生存率の低下が回復した2 Gyは、X線ブロードビームを照射した場合にD0に相当することから、バイスタンダー細胞死の誘導には、照射細胞の生存が必要である可能性が示唆された。細胞生存率の低下は、活性酸素種のスカベンジャーであるDMSOでは抑制されず、ギャップ結合の阻害剤lindaneでわずかに抑制された。一方、iNOSの阻害剤アミノグアニジン、一酸化窒素(NO)のスカベンジャーであるc-PTIOにより、生存率は97%まで回復した。以上の結果から、放射光X線によるバイスタンダー応答において、主にNOがイニシエーター・メディエーターとして働くことが明らかとなった。
著者関連情報
© 2009 日本放射線影響学会
前の記事 次の記事
feedback
Top