抄録
セミパラチンスク旧核実験場では、1949年~1989年に約460回の核実験が行われた。周辺住民は、1962年までの約120回の大気圏内核実験により複数回の低線量放射線の外部と内部からの複合被ばくをした。協会では2001年以来、カザフスタンの放射線影響調査防護センター、国立原子力センター等の協力を得てこれらの住民の疫学調査を行ってきた。調査では放射能雲の通過した地域の住民(被ばく調査集団)と対照地域の住民(対照調査集団)について、公文書保管所や住民登録所等での書類調査、住民の聴取り調査等でデータを収集した。2008年度末時点での調査対象者は約131,700人で、被ばく調査集団51,900人が含まれる。この集団で居住歴判明により線量計算が可能な者は約20,400人、うち生死判明者は約16,800人(生存者:7,500人、死亡者:9,300人)であった。対照調査集団は設定後の日が浅いので今回の解析には用いなかった。死因としては循環器系疾患が全死因の42%で、主に虚血性心疾患と脳血管疾患であった。新生物は全死因の21%で、食道、胃の悪性新生物が多かった。被ばく線量はロシア連邦保健省の計算式により計算し、被ばく線量と死因(ICD-10分類)に基づき被ばく集団の内部比較で死亡率比を計算した。この結果、男性では循環器系疾患が高線量群で増加する傾向が見られた。女性では高線量群で循環器系疾患及び虚血性心疾患が増加する傾向が見られた。性別、年齢、民族、被ばく線量についての多変量解析では、新生物及び循環器系疾患ともに性別、年齢、民族の影響が大きかった。(この調査は、エネルギー対策特別会計委託事業「原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査」(平成13~20年度)の一部として行われた。)