抄録
【背景と目的】
幹細胞は非対称分裂を行うと考えられているが、そのメカニズムの全容は明らかではない。本研究は、幹細胞は選択的染色体分配を行うことで非対称分裂を維持しているという可能性について、神経幹細胞を用いて検証するものである。私たちは、これまでブロモデオキシウリジン(BrdU)で新生DNA鎖をラベルする方法により、マウス脳由来ニューロスフェア形成細胞中には選択的染色体分配を行う細胞が約3%存在するという結果を得ている。そこで、本研究では神経幹細胞の存在割合を濃縮によって高くし、さらに細胞質分裂を止めた2核細胞を対象として選択的染色体分配について解析した。
【材料と方法】
ICRマウス胎児から線維芽細胞、また、胎児脳から神経幹細胞を含むニューロスフェア形成細胞を分離して培養系に移した。神経幹細胞を濃縮するために、フィコエリトリン(PE)コンジュゲート抗CD133抗体を用いて染色後、さらに磁性体粒子結合抗PE抗体を用いてCD133陽性細胞を磁性体化した。この磁性体化細胞を磁気カラムを用いて分取して神経幹細胞を濃縮した。次に選択的染色体分配を調べるために、細胞にBrdUを48時間取り込ませて新生DNA鎖をラベルした。その後BrdUを除去し、細胞質分裂阻害剤であるサイトカラシンB存在下で24時間培養して2核細胞を得た。細胞回収後、抗BrdU抗体を用いて蛍光染色し、選択的染色体分配を2核細胞について調べた。
【結果と考察】
2核細胞のうち、91%がBrdU陽性細胞であった。さらにBrdU陽性細胞は、2核とも陽性を示す細胞と1つの核だけが陽性を示す細胞の2種類に分類できた。このうち前者はランダムな染色体分配、また、後者は選択的染色体分配の結果を示しており、割合はそれぞれ81%、及び10%であった。一方、対照群であるマウス胎児線維芽細胞では、1つの核だけが陽性を示す2核細胞の割合は0.7%であった。以上の結果は、神経幹細胞において選択的染色体分配が行われているとする前回の結果を強く支持するものである。