日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: P1-27
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DNA切断と修復
放射線による染色体不安定性の誘導
*田辺 正輝鈴木 香那白石 一乗縄田 寿克押村 光雄児玉 靖司
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抄録
【目的と背景】
本研究の目的は、放射線被ばくによるゲノム不安定化が如何にして子孫細胞に伝搬されるのか、そのメカニズムを明らかにすることにある。そのために本研究では、放射線によるゲノム不安定化は、ゲノムに刻印された被ばくの記憶を介した染色体間のクロストークによって間接的に放射線被ばくの影響が伝搬されるものであるという仮説について、染色体移入法を用いて実証する。
【材料と方法】
ヒト8番染色体を含むマウスA9細胞に4GyのX線を照射後、コルセミド48時間処理によって微小核を得た。微小核細胞を精製後、微小核融合法により被ばくヒト8番染色体をマウスm5S細胞に移入した。移入後20回以上分裂した微小核融合細胞における移入ヒト8番染色体の安定性を、染色体蛍光染色(WCP-FISH)法により解析した。さらに染色体不安定化を示した細胞においては、テロメアとサブテロメアの安定性についてFISH法を用いて調べた。
【結果と考察】
被ばくしていないヒト8番染色体を移入した微小核融合細胞では、染色体移入後のヒト染色体の構造異常は見られなかった。このことは染色体移入過程で染色体構造が不安定化することはないこと示している。4Gy被ばくヒト8番染色体を移入した7種の微小核融合細胞について移入染色体の安定性を調べたところ、6種類の染色体異常が高い(98%)割合で生じている細胞が1種みられた。そこでこの高い不安定性を示す細胞について、被ばく8番染色体とマウス染色体による転座の融合部をテロメアFISHで調べたところ、テロメア配列は残っていなかった。このことは、この転座はテロメア融合ではなく、切断端同士の再結合によって形成されたことを意味している。また、サブテロメアFISHによる解析では90%の細胞で短腕シグナルが消失していた。また、残る10%の細胞では、短腕と長腕シグナルがそれぞれ別々の染色体に転座していた。
これらの結果は、非被ばく染色体と転座を形成しながら、さらに不安定化を加速させる被ばく染色体の性質を示している。
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© 2009 日本放射線影響学会
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