日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: P1-32
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DNA修復酵素
損傷乗り越えDNA合成酵素Rev1の放射線応答に対する影響
*三家本 隆宏豊島 めぐみ習 陽本田 浩章濱崎 幹也楠 洋一郎神谷 研二
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抄録
放射線や化学物質はDNAに損傷を与え、点突然変異を誘発する。そして点突然変異の積み重ねは最終的に細胞のがん化を引き起こす可能性がある。点突然変異を誘発するものとして、近年DNA修復機構の1つである損傷乗り越え合成(TLS)が注目されている。TLSとは、DNA上の損傷部位で停止してしまったDNA合成ポリメラーゼに代わって、特別なポリメラーゼがDNA合成を続けることで細胞の危機的状態を回避する機構である。しかしTLSに関わるポリメラーゼは「誤りがちなポリメラーゼ」と呼ばれ、誤った合成を行ってしまうことがある。
損傷乗越えポリメラーゼには様々な種類が存在する。我々はその中でも中心的な役割をすると考えられているRev1に焦点を当てて研究を行っている。Rev1はYファミリーに属するポリメラーゼの1つとして発見され、バクテリアからヒトまで広く保存されている。Rev1は損傷部位を鋳型にCの塩基を挿入し、脱塩基部位などを効率よく乗り越えることができるが、結果として間違った合成を行ってしまうことがある。そのため、Rev1を中心に機能するTLSは点突然変異を誘発すると考えられる。Rev1については生化学的研究を中心にその機能の解析が進められているが、個体レベルでの研究報告は少ない。
本研究はRev1を過剰発現させたトランスジェニックマウスを用いて個体レベルで放射線応答にRev1がどの程度影響するのかを調べたものである。放射線応答の指標としてT細胞受容体変異頻度および末梢血微小核出現頻度を測定した。T細胞受容体は放射線などの障害因子に対して高感受性であり、わずかな放射線応答の違いでも測定できる。末梢血微小核は放射線特有の損傷であるDNA二本鎖切断に起因するもので、二本鎖切断の形成や修復に対するRev1の影響を調べた。どちらの実験系でもRev1過剰発現による放射線応答の違いがみられ、Rev1が放射線による突然変異形成の過程に影響していることが示された。また、微小核出現頻度の測定結果からDNA二本鎖切断に対する修復系や細胞周期の制御系への影響が示唆されたため、これらについても検証した。
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© 2009 日本放射線影響学会
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