抄録
生体への放射線照射により細胞内では様々な活性酸素種が生じることが知られている。活性酸素は種々の細胞成分を酸化することから、放射線障害の間接作用の主要な原因と考えられている。私たちは特に遺伝情報を担う核酸の酸化とその修復機構に注目して研究を行っている。これまでに私たちはグアニンの酸化体である8-オキソグアニン(8-oxoG)がほ乳類ゲノムにおいて塩基置換や染色体組換えの主要な原因であることを示唆する結果を得ている。今回は継世代的影響を明らかにする目的で、8-oxoG の修復に関与するマウスの3つの遺伝子(Ogg1, Mth1, Mutyh)の生殖細胞中での発現やそれらの欠損による影響を解析した。それぞれの遺伝子は精巣の減数分裂期の細胞で高い発現を示した。また、遺伝子欠損マウス由来の細胞では染色体数の異常や姉妹染分体の早期分離が見られた。さらに3つの遺伝子を全て欠損した変異マウス系統ではがんや遺伝性の先天性異常が多発したことから、8-oxoGの生殖細胞ゲノムへの蓄積が突然変異頻度を上昇させ、継世代変異の原因となることが示唆された。