抄録
【目的】我々は前回、マウスに低線量X線を事前照射した場合、凍結脳損傷に伴う脳浮腫が抑制される可能性が高いことを報告した。本研究では、脳組織の病理学的観点からこの抑制効果に関して検討した。【方法】8週齢・雄のBALB/cマウスに、Sham照射あるいは0.5GyX線の全身均等照射を行い、その4時間後に、常法に従い右脳に凍結損傷モデルを作製した。凍結損傷1、4、24、あるいは48時間後の脳を試料とし、hematoxylin-eosin染色、kluver-barrera染色、およびterminal dUTP in situ nick end labelling (TUNEL) 染色を施した。その後、脳中の単位面積あたりの細胞数および無構造域を画像解析により定量した。【結果例と考察】1)凍結損傷部位の大脳皮質において核の萎縮や空胞変性が見られ、脳浮腫の特徴的な病理像を示した。2)損傷部位の細胞数は、Sham照射の場合に凍結損傷4、24、48時間後で有意に減少し、0.5Gy照射の場合に24、48時間後で有意に減少した。同部位における無構造域は、Sham照射および0.5Gy照射いずれも凍結損傷4、24、48時間後で有意に大きくなった。この内、4時間後では0.5Gy照射の方がSham照射に比べ有意に小さかった。これより、0.5Gy照射は凍結損傷に伴う脳浮腫を抑制する可能性が示唆できた。さらに、3)損傷部位のアポトーシスを起こした細胞数は、凍結損傷1時間において0.5Gy照射した方がSham照射に比べて有意に少なかった。また、4) 損傷部位の神経細胞数は、Sham照射および0.5Gy照射いずれにおいても、24、48時間後で有意に減少した。これより、凍結脳損傷により、グリア細胞の方が神経細胞よりも早期に減少することが示唆できた。以上の所見より、病理学的観察からも0.5Gy照射により脳浮腫を抑制、遅延する可能性が高く示唆でき、前回の報告を支持する結果が得られた。