抄録
細胞のDNA合成レベルが放射線照射後低下することは、生物種を問わない普遍の現象である。ところが、X線照射後にDNA合成レベルが上昇するという現象をゴーリン患者由来細胞で我々は見出した(Fujii et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 240, 269–272, 1997)。
さらに、ゴーリン患者由来細胞において、X線照射後に発現レベルが低下する遺伝子として、ユビキチン様タンパク質SUMO-2 を同定し、正常ヒト細胞においてアンチセンスオリゴ処理によりSUMO-2遺伝子の発現を抑制すると、X線照射後にDNA合成レベルの上昇することを見出している(Mutat. Res. 578, 327-332, 2005)。HeLa細胞においても、SUMO-2のSiRNA処理により、SUMO-2遺伝子の発現を低下させると、X線照射による合成の誘導現象を再現させることに成功している。そこで今回は、X線照射後に細胞内含有量が変動するタンパクを2次元電気泳動法による網羅的解析で探索したところ、腫瘍転移抑制因子NM23-H1を同定した。さらに、ウェスタンブロッティング解析より、SUMO-2遺伝子の発現を抑制した細胞において、X線照射後のNM23-H1タンパクの減少を確認できた。また、NM23-H1のSiRNA処理により、X線照射によるDNA合成の誘導現象がみられた。一方、X線照射後にNM23-H1タンパクのSUMO化がみられた。以上の結果から、X線照射後のSUMO-2が関わるDNA合成上昇にNM23-H1も関わることが示唆された。