抄録
p53遺伝子ノックアウトマウスを用いた発がん実験は、p53遺伝子と発がんとの関係を探るために不可欠であるにもかかわらず、p53遺伝子ノックアウトマウスの寿命の短さが、発がん実験を困難にしている。近年注目されているRNAiは目的遺伝子のノックダウンを可能にしたが、in vivoへの適用は今だ容易ではない。数年前からsiRNAとコラーゲンを混和し投与する方法が遺伝子ノックダウンに有効であるとの報告がされている。そこで、このコラーゲンとsiRNAを混和したものを照射部位皮下に注入し、マウス皮膚に疑似p53遺伝子ノックアウト部位を局所的につくり、放射線発がん実験に応用可能かを検証した。
我々の発がん実験は、マウスの背部皮膚にベータ線源を密着させ、これを週3回、腫瘍が発生するかマウスの寿命が尽きるまで皮膚を反復照射する方法である。線種がベータ線なので透過力が小さく、皮膚以外の部位に影響を及ぼしにくく、発がん以外の障害が起きにくい。一方生じた皮膚腫瘍はマウスの自発腫瘍としてはまれな腫瘍なので、放射線誘発腫瘍と判断できる。この実験方法で、照射部位の皮膚のp53遺伝子を効率的にノックダウンさせることができれば、ノックアウトマウスを用いた実験に近づくことが可能となると考えられる。そこで、p53遺伝子を効率よくノックダウンさせるsiRNAの設計とコラーゲンの濃度、混合物全体の皮下への投与量を検討した。また、投与したsiRNAが投与後どのくらいで効果を発揮し始め、どのくらい持続するのかを検討した。今回は、これらの条件を様々に設定し、皮膚のp53遺伝子のノックダウンのための至適条件を求めた。この方法による遺伝子の局所的かつ時間的な制御が可能になれば、放射線発がん実験のみならず、紫外線や化学発がんへの応用や、発がん実験以外の様々な生物実験に応用できる。