抄録
原爆投下後60年以上が経過しても原爆被爆者における肺がんの過剰相対リスクはいまだに高い。しかしながら、放射線被曝が長期間にわたり肺がん発生に影響を及ぼす分子機序は未だ不明である。我々は、放射線被曝が肺発がんに及ぼす影響を検討するため、原爆放射線被曝者20人および非被曝者18人の非小細胞肺がん症例のp16 とRASSF1A 遺伝子のDNAメチル化の状態を解析し、放射線被曝との関連を調べた。その解析から、被曝非小細胞肺がん症例のRASSF1A 遺伝子のDNAメチル化は非被曝症例よりも低頻度であり (32% (6/19) vs. 56% (10/18))、被曝症例では、扁平上皮がんのメチル化の頻度は腺がんよりも低いという傾向がみられた。統計的な有意差はなかったが、これらの結果から、組織型特異的に特定の遺伝子のメチル化頻度が放射線被曝と関連することが示唆された。症例数を増やした更なる研究が必要である。
ゲノムDNA全体のメチル化の指標となるレトロトランスポゾンLINE1 のメチル化の状態も解析中である。この解析結果も報告する予定である。