抄録
固形腫瘍の放射線感受性を基本的に決定しているのは、DNA2重鎖切断の生成とその修復である。DNA2重鎖切断の修復はnon-homologous end joining (NHEJ)とhomologous recombination (HR)により修復され、これらの経路に関連する多くの遺伝子がクローニングされている。大部分の放射線高感受性遺伝病の原因遺伝子はこれらの修復経路に位置していることから、これらの修復経路を構成する遺伝子は放射線増感のための分子標的となることが示唆され、実際にNHEJに属するDNA-dependent protein kinase (DNA-PK)に対する阻害剤やsiRNA/アンチセンスDNAによる発現抑制により放射線増感が得られている。我々は食道癌と大腸癌の手術標本におけるDNA-PKの発現を調べた結果、DNA-PKを構成するKu70、Ku80、DNA-PKcsの発現の間に強い相関が認められることが明らかになり、共通の転写制御によることが示唆された。また、食道癌では、臨床的に悪性度が最も高いと考えられる最侵部においてDNA-PKの発現が高く、放射線や一部の抗癌剤に対する抵抗性の原因になっていると考えられる。Ku70、Ku80、DNA-PKcsのプロモーター領域にはSp1結合配列が存在し、さらにATM、XRCC4、NBS1、MRE11など他のDNA2重鎖切断の修復に関与する遺伝子にもSp1結合は配列が存在することから、Sp1による共通の転写制御が示唆された。Sp1に対するsiRNAにより発現を抑制するとこれらの遺伝子の発現も抑制され、細胞の放射線感受性は高められた。修復に関与する個々の遺伝子ではなく転写因子を分子標的のターゲトとする利点は、単一の遺伝子制御により多くの遺伝子の発現を抑制し大きな放射線増感が得られる点と、Sp1に関しては分裂が盛んな細胞を選択的に放射線増感できる点にある。