抄録
【目的】NAD+依存性タンパク質脱アセチル化酵素であるSirt1は、寿命調節に関与する酵素として近年注目を集めている。また最近の研究において、Sirt1は多様な生理機能を制御していることが報告されており、放射線によるDNA二本鎖切断修復に対してもSirt1が寄与することが示唆されている。そこで本研究では、放射線や酸化ストレスにより高頻度に生じ、遺伝子変異の要因となるDNA塩基損傷に対する修復機構である塩基除去修復に着目し、その構成要素であるAPエンドヌクレアーゼ1 (APE1)がSirt1により脱アセチル化を受けるかどうか、またそれがAPE1機能および塩基除去修復経路にどのように影響するかを明らかにすることを目的とし研究を行った。
【方法および結果】APE1またはSirt1をRNA干渉法を用いてノックダウンしたヒト子宮頸癌由来Hela細胞では、DNAアルキル化剤methylmethane sulfonate (MMS)および過酸化水素処理により引き起こされる細胞死の増加が観察された。APE1とSirt1は細胞内において相互作用し、in vitroおよびin vivoにおいてAPE1はSirt1により脱アセチル化されることが、免疫沈降-ウェスタンブロット法により示された。APE1はX-ray repair cross-complementing 1 (XRCC1)と複合体を形成することでDNA修復活性が増強されることが知られているが、Sirt1活性化剤であるresveratrol処理により細胞内でのこの複合体形成が促進され、Sirt1のノックダウンによりこの効果は失われた。さらに、Hela細胞をSirt1阻害剤または活性化剤で処理した後、XRCC1免疫沈降物を用いてAPE活性を測定した結果、APE活性はSirt1阻害剤で減少し、活性化剤で増加した。
【結論】本研究により、(1) Sirt1はAPE1と相互作用し、APE1を脱アセチル化すること、(2) Sirt1は脱アセチル化を介してAPE1とXRCC1の相互作用を促進することで、塩基除去修復によるDNA修復活性を増強し、結果的に細胞死を抑制することが示唆された。