抄録
DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子の欠損は、複製時に生じるミスマッチによってがん関連遺伝子にフレームシフトや点突然変異を蓄積する。このMMR遺伝子のヘテロ欠損は、ヒトの遺伝性非腺腫症性大腸癌の原因であり、TGFBR2やBAXなどの標的遺伝子内の一塩基リピート配列にフレームシフト変異を生じさせることが報告されている。一方、MMR遺伝子のホモ欠損は小児のTまたはB細胞白血病を発症するが、その標的遺伝子はまだ明らかではない。Mlh1-/-マウスは発がん処理なしで10週齢からTリンパ腫を、15週齢から腸管腫瘍を自然発症する。本研究では、腸管腫瘍発生に対する放射線の被ばく時年齢依存性および腫瘍の特徴について解析した。
腸管腫瘍は、2週齢または7週齢のMlh1+/+、 Mlh1+/-、 Mlh1-/- マウスにX線2Gyを全身照射後、10週齢においてデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)(1%)を1週間飲水投与して誘発した。Tリンパ腫の発生を抑制するため、すべてのマウスは4週齢で胸腺摘除した。25週齢Mlh1-/-における腫瘍の発生率は、放射線照射のみ(2週齢照射10%、7週齢照射0%)とDSS投与のみ(40%)に比べて両者の複合曝露で増加した(70%、50%)。2週齢の照射は7週齢照射に比べてがんの個数を増加させる傾向が認められた。また、放射線照射後の腸管細胞におけるアポトーシス感受性は、2週齢より7週齢で高く(Imamura et al., submitted)、これが発がんに関与する可能性が示唆された。Mlh1+/+マウスでの腫瘍の発生は認められなかった。発生した腫瘍の病理解析およびTgfbr2、Trp53、Ctnnb1などの発現(免疫染色)ならびに遺伝子変異についても解析中である。