抄録
【目的】近年、発達期における放射線の影響について注目されているが、詳細な報告は少ない。そこで我々は、発達期および成体期における放射線被ばく時年齢依存性について、マウス腸管のアポトーシスを指標に比較し、発達期における放射線の急性影響について検討した。また年齢依存性に関わる候補因子として、p53およびp21の発現を調べた。
【材料と方法】出生直後(1日齢)、哺乳期(2週齢)および成体期(7週齢)においてX線2Gyを全身照射し、照射後3、6、12、24、48、72時間における小腸ならびに大腸のアポトーシスをactive caspase-3抗体染色により判定した。各群ともに雌雄3匹ずつ用い、アポトーシス頻度を測定した。次に、各齢照射3時間後の腸管におけるp53、p21の発現について免疫組織化学的に検討した。
【結果】成体期および哺乳期照射群(小腸)におけるアポトーシス頻度は照射3-6時間後に最大であり、ピーク値は成体期のほうが哺乳期群よりも有意に高かった。大腸におけるアポトーシスの経時的パターンは小腸と同様であったが、その頻度は小腸よりも低い傾向がみられた。一方、出生直後照射群では、小腸では6時間以降、大腸では24時間以降に初めてアポトーシスがみられたが、頻度は著しく低かった。次に、照射3時間後のp53およびp21の発現を調べた結果、アポトーシス頻度の高かった成体期ではp53の発現が高く、p21は照射前と比べて大きな変化は観察されなかった。しかし、アポトーシス頻度の低かった哺乳期・生後直後期では、p53の発現は成体期と同様に高かったが、p21は成体期とは異なり、照射前に比べて高い発現が観察された。以上より、マウス腸管アポトーシスは被ばく時年齢に依存性していることが明らかになった。