抄録
【目的】低線量放射線の生物影響は、DNAを対象とした標的効果の影響解析のみならず、バイスタンダー効果や遅延性影響などの非標的効果による影響も解明されるべきである。我々は照射細胞から分泌される因子を介したバイスタンダー効果の機構解明を目指し、ラジカルの誘導と突然変異誘発に焦点を絞り解析を行った。
【方法】細胞は、CHO細胞を用いた。照射細胞から放出される分泌因子による影響を調べるため、照射細胞の培養上清を照射24時間後に回収し、別に用意した非照射細胞に24時間処理した。培養上清処理細胞におけるラジカルの誘導レベルは、ESR法により調べ、細胞の突然変異誘発頻度は、HPRT遺伝子座位における突然変異について6チオグアニン耐性を指標にして調べた。ラジカルスカベンジャーとしてはビタミンCを用い、液性因子を介したバイスタンダー効果の抑制効果について検討した。
【結果】4Gyおよび0.2GyのX線照射細胞由来の分泌因子を含む培養上清を処理した細胞では、HPRT遺伝子の突然変異頻度が対照細胞群に比べ有意に高いことがわかった。このことから照射細胞から分泌される何らかの因子は、突然変異を誘発していることが明らかとなった。また、照射細胞由来の培養上清を処理した細胞を回収し、ESR法で細胞内のラジカル生成を調べたところ、遅発性誘発長寿命ラジカル(SRLLRS)が増えていることがわかった。このSRLLRSは、照射細胞においても検出され、照射数時間後から徐々にレベルが増加するものであった。SRLLRSはビタミンCにより消失したが、同様の処理により突然変異誘発も抑制された。
【結論】放射線による突然変異生成には、活性酸素種とは動態の異なる遅発性誘発長寿命ラジカルが持続的に関与する可能性が示唆された。このラジカル種は、照射細胞から分泌される因子を介したバイスタンダー効果でも生成し、バイスタンダー細胞の突然変異生成に関わる可能性が示唆された。