日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: OB-17
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放射線応答・シグナル伝達
培地経由バイスタンダー効果で誘発される遅発性長寿命ラジカル
*熊谷 純三浦 和人見置 高士菓子野 元郎渡邉 正己
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抄録
バイスタンダー生物影響は照射細胞から分泌されたバイスタンダー因子による影響に限定でき、放射線によって生成した活性酸素の影響を省くことができるため、放射線の影響機構を整理しやすい。我々は直接照射細胞中に照射後数時間かけて生成してくる遅発性長寿命ラジカル(SRLLRs)の直接ESR観測に成功している。このラジカルはアスコルビン酸を照射後に処理すると生成せず、点突然変異も抑制されることを見出している。本研究では培地経由バイスタンダーの実験系を選び、CHO細胞の突然変異とSRLLRsのレベルとの関係を調べた。γ線照射(1 Gy)されたCHO細胞(ドナー細胞)の入ったフラスコの培地を、照射後24時間後に別の正常なCHO細胞(バイスタンダー細胞)を植え込んであるフラスコに移した。培地移動してから24時間後にバイスタンダー細胞を回収してESRチューブに詰め、77 Kにて直接観測した。その結果、バイスタンダー細胞中のSRLLRsレベルは平均して20%増加した。ドナー細胞なしで培地のみを照射してレシピエント細胞に24時間晒しても、SRLLRsの増加は見られなかった。従って、SRLLRsの増加はドナー細胞から培地に溶け出したバイスタンダー因子によるものである。HPRT-の点突然変異頻度も4倍に増加した。また、培地移動と同時にアスコルビン酸(1 mM)を処理すると、SRLLRsレベルは対照群とほぼ同じくらいとなり、点突然変異頻度も有意に下がった。ドナー細胞にミトコンドリアの電子伝達阻害剤を加えると、培地移動によるSRLLRsの増加は見られなかった。以上の結果より、培地中のバイスタンダー因子はドナー細胞のミトコンドリアの機能不全と関連して生成し、バイスタンダー細胞中にSRLLRsを生成するものの、アスコルビン酸はそれを消去できることがわかった。また、SRLLRsレベルの変化と点突然変異頻度との間に相関が見られることから、SRLLRsが点突然変異誘発に関与していると考えられる。
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© 2009 日本放射線影響学会
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