抄録
【目的】陽子線の生物学的効果比は1.1とされているが、まだ多くの不確実性(uncertainty)が存在しており、特に高エネルギー陽子線とエックス線による生物学的効果の違いはまだ十分明らかになっていない。そこで本研究では、治療用の高エネルギー陽子線とX線によって起きる、(1)DNA二本鎖切断、(2)アポトーシス誘導、(3)コロニー形成抑制効果を検討した。
【対象、方法】ヒト脳腫瘍培養細胞株ONS 76とヒトT細胞白血病細胞株MOLT4を対象とし、照射には200MeVの陽子線と10MVのX線を用いた。照射後に起きるDNA二本鎖切断は、 -H2AXを免疫組織化学染色し画像解析にて定量化した。また、細胞死の評価は、AnnexinV-FITCとPIの二重染色法を行い、フローサイトメトリーにて解析した。さらに、コロニー形成アッセイを行い、生存曲線をLQモデルにて解析した。コロニー形成アッセイと細胞死の検出では、培養フラスコを水中10 cmの深さに沈めて照射し、免疫組織化学染織ではチャンバースライドを使いボーラスを用いて室温にて照射した。
【結果、考察】0.5-2Gyの範囲では -H2AXフォーカスは線量依存性に増加し照射後30分でピークとなりその後漸減した。また、同じ線量の照射で、陽子線はX線の1.14 – 1.436倍の -H2AXフォーカスを形成した。アポトーシスは陽子線照射後の方がX線より早く出現し、8Gyの照射では陽子線によるアポトーシスは12時間でピークとなったがX線では20時間でもピークは観察されなかった。また、陽子線はX線の1.01 – 1.52倍のPI陽性細胞死を誘導することが明らかになった。コロニー形成アッセイでは 10% S/Soにおける陽子線のX線に対する生物学的効果比は1.067であった。
以上の結果から、増殖能を評価するコロニー形性アッセイよりも直接的に細胞損傷を評価する方法では陽子線の細胞障害性はX線よりも有意に高いことが明らかになり、その損傷メカニズムは異なることが示唆された。