抄録
【目的】テモゾロミド(TMZ)はグリオーマの化学療法に使用されるアルキル化剤の一種である。しかし、治療効果は薬剤抵抗性の獲得のために限界がある。この薬剤に対する抵抗性のメカニズムは複雑で、多くのDNA修復経路が関与し、薬剤効果はDNA修復の寄与に強く左右されることが示唆されてきた。最近、Fanconi anemia(FA)経路はTMZによってできるDNA損傷によって活性化されることが明らかになった。FA経路には少なくとも12個の因子(FANCA, B, C, D1, D2, E, F, G, I, J, L, M)が関与する。今回我々は、FA経路関連遺伝子;FANCA、FANCC、FANCD1、FANCD2、FANCG中で、薬剤の殺細胞効果を高める標的候補を比較検討した。
【方法】p53ノックアウトマウスから確立されたMEF細胞FANCA -/-、FANCC -/-、FANCD2 -/- (Fanconi Anemia Cell Repository; Oregon Health and Science Univ., USAより譲渡)、CHO細胞由来のFANCD1mt、FANCGmt (Dr. Larry H. Thompson; Lawrence Livermore National Laboratory, USA) およびそれぞれの親株細胞を用いた。TMZを培地中に添加して3時間、37°C処理し、コロニー形成法にて生存率を算出した。
【結果】それぞれの細胞のD50(50%生存率の薬剤濃度)を正常型のD50と比較し、%表示した相対的D50 値はFANCA -/-、FANCC -/-、FANCD2 -/-細胞で各々83.3、100、66.6、 FANCD1mt、FANCGmt細胞で4、13.3であった。FANCD1の相対的D50 値が最小で、TMZの殺細胞効果を最も高める標的はFANCD1であることを明らかにした。
【総括】今後、FANCD1を標的としたsiRNAによって、グリオブラストーマのTMZによるがん治療効果が増感するのかを検討する