抄録
4-Nitroquinoline-1-oxide (4NQO) はUV-mimicな発がん性物質であるが、それ自身はDNA結合性も変異原性も有していない。4NQOはseryl-tRNAによって4-hydroxyaminoquinoline-N-oxide (4HAQO) に変化し、この4HAQOが塩基に結合しDNAに付加産物を生成する。4HAQOには、細胞内の酸化ストレスを増大させ、脂質、タンパク質、DNAにダメージを与える活性酸素種 (ROS)を生成するという、他のDNAを損傷させる機構があると示唆されている。しかし、この機構が変異原性に関与しているかどうかは、まだ分かっていない。MutMとMutYはROSによって生じるDNA損傷の修復に関与する塩基除去修復を行う。UvrAはヌクレオチド除去修復を行う。
本実験において、我々は増殖期において4NQOによって処理された大腸菌の突然変異スペクトルを調べた。ラクトース復帰突然変異測定法は、6種類の塩基置換変異を独立に測定することができる。この結果、4NQOによって、G:C → A:T、G:C → T:A、A:T → C:Gの変異が特異的に誘導されることがわかった。さらに、我々は4NQOの変異原性がDNAの付加産物としての活性と、ROSを産生する活性のどちらに依存するのかを、mutM、mutY、mutM mutY、uvrA欠損株を用いてリファンピシン突然変異変異測定法で調べた。リファンピシン突然変異測定法は非特異的な突然変異率を測定することができる。その結果から、mutM、uvrA欠損株は4NQO感受性であるが、4NQOによって突然変異率は上昇しないことが示唆された。
我々は4NQOによって生じるROSと突然変異誘発性の関係をより明らかにするため、mutM mutY uvrA欠損株とkatGやsoxSなどの活性酸素除去に関わる遺伝子の欠損株を用いて研究を行っている。最終的には、DNA付加化合物としてとROS産生能としての4NQOの活性のどちらがより大きな影響を有しているかを明らかにしたい。