抄録
点突然変異の蓄積ががん化を引き起こすと考えられている。これまでの研究から、点突然変異の誘発には損傷部位を乗り越えて複製を行う「損傷乗り越えDNA合成」が深く関与していることが明らかにされている。Yファミリーポリメラーゼは、「損傷乗り越えDNA合成」を行うポリメラーゼとして知られており、ほ乳類ではpol η、ι、κ、Rev1の4種類が存在し、忠実度が低く「誤りがちなDNA合成」をすることで突然変異を誘発すると考えられている。実際、「損傷乗り越えDNA合成」が正しく機能しないと、誘発突然変異頻度が上昇し、発がんが促進される事が報告されている。なかでも、Rev1は「損傷乗り越えDNA合成」において中心的な役割を担っていると報告されている。また、酵母や培養細胞を用いた実験から、Rev1の欠損は化学物質や紫外線だけでなく放射線に対しても感受性を示すことから、Rev1は様々な損傷修復に寄与していると考えられる。
そこで我々は、Rev1 トランスジェニックマウスを用いることにより、点突然変異誘発機構が放射線発がんや化学発がんに果たす役割を明らかにすることを試みた。
放射線発がん実験には、4週齢の野生型、Rev1 トランスジェニックマウスに、週に1度7週齢まで、計4回ガンマ線を照射し、その後終生観察し、発がん頻度、生存率について野生型と比較した。また、化学発がん実験として、6週齢のC57BL/6の野生型、Rev1 トランスジェニックマウスに、N-methyl-N-nitrosourea (MNU)を50mg/ kgを週に1度、計2回腹腔内投与した。その後、終生観察し、発がん頻度、生存率について、野生型マウスと比較した。
放射線照射による胸腺リンパ腫の発症は、Rev1 トランスジェニックマウスは野生型マウスよりも遅延する傾向がみられた。一方、MNU投与により、Rev1 トランスジェニックマウスでは、野生型と比較して、早期にかつ高頻度で胸腺リンパ腫の発症がみられた。
これらの結果から、Rev1 は異なる機能により、化学発がん、放射線発がんによって誘発される胸腺リンパ腫の発症に寄与していると示唆される。