抄録
[目的]
COX-2はがんの転移浸潤、血管新生、放射線耐性に深くかかわる因子であり、潜在的にCOX-2が過剰発現している細胞は放射線感受性が低く悪性度が高い。特に悪性脳腫瘍ではCOX-2の発現が高く、治療抵抗性との関連が示唆されている。また、悪性脳腫瘍の多くは低酸素状態にあり放射線感受性が低く血管新生が盛んである。そこで本研究では、低酸素状態で培養した脳腫瘍細胞の放射線感受性に対する選択的COX-2阻害剤Celecoxibの効果を検討した。
[材料方法]
対象としてヒト膠芽腫細胞株A172、マウス悪性脳腫瘍細胞株GL261を用いた。通常の培養条件下で培養後、ガスパックパウチを用いてこれらの細胞を低酸素環境(O2濃度1%以下24時間)に維持した。その後、選択的COX-2阻害剤Celecoxib (Pfizer.US)10~30μMを添加し、137Csガンマセルを用いて5Gyのγ線を照射して、抗腫瘍効果の検討を行った。抗腫瘍効果は、増殖抑制試験、コロニー形成法で評価し、COX-2の発現はウェスタンブロットで評価した。
[結果]
通常酸素下(Normoxia)では、臨床的濃度(10~30μM) のCelecoxib単独ではいずれの細胞株においても有意な増殖抑制効果は認められなかった。また、γ線照射単独と比べ、γ線+celecoxibでは有意な細胞増殖遅延がみられ、Celecoxibの放射線増感作用が示唆された。さらに、低酸素下(Hypoxia)においてもNormoxiaと同等かそれ以上の増殖抑制効果が認められた。Celecoxib存在下でのγ線照射は、細胞の酸素状態に依らず悪性脳腫瘍細胞株に対して高い増殖抑制効果を示した。
[結論と考察]
COX-2はprostaglandin Eを介して低酸素下で放射線感受性に関わる因子HIF-1 alphaの発現を上昇させるという報告があり、また、VEGFの発現を上昇させることも知られている。今回の結果から、選択的COX-2阻害剤Celecoxibが低酸素状態にある膠芽腫細胞に対しても放射線増感作用を示したことから、Celecoxibは放射線抵抗性の膠芽腫に対する放射線治療においても増感効果を見込める優れた薬剤であることが示唆された。