抄録
(目的) 放射線治療は形態及び機能の温存に優れていることから、咀嚼や嚥下、会話などの重要な機能を果たす口腔領域の悪性腫瘍の治療において重要な選択肢の一つである。しかし、放射線治療に対して低感受性の悪性腫瘍や放射線耐性細胞の出現により、治療の失敗や再発が認められる。本研究では、腫瘍血管を標的とすることによりin vivoにおいて2Gy/dayのX線を照射し続けても増殖する臨床的放射線耐性腫瘍の克服を目指した。
(方法) ヒト口腔扁平上皮癌細胞SAS細胞及びその派生株である放射線耐性SAS-R細胞をヌードマウス背部皮下に移植してxenograft modelを作製した。mTOR阻害剤であるRAD001を経口投与すると共に、2Gy/dayのX線を30日間腫瘍部のみに分割照射した。さらに腫瘍内血管走行をトマトレクチンにて可視化し、腫瘍の組織学的解析を行った。
(結果) ELISA解析の結果から、in vitroにおいてSAS-RはSASに比べて2.5倍VEGFの産生量が高かった。また、SAS-R腫瘍はSAS腫瘍と比較し血管密度が有意に高いことも明らかになった。RAD001との放射線併用療法において、SAS-R由来の腫瘍では血管密度の減少や腫瘍内血流の遮断及び血管基底膜の残存像が多く観察され、SAS由来の腫瘍よりも早期に腫瘍体積が減少し始めた。さらに、腫瘍内血流が遮断された虚血状態をin vitroで再現しX線照射したところ、SAS-R細胞は早期に死滅した。
(考察) 臨床的放射線耐性の原因のひとつに、高いVEGF産生量とそれに伴う血管密度の高さが示唆された。従って、RAD001によるmTOR阻害効果によるVEGFの抑制は、臨床的放射線耐性腫瘍の克服に有効であることが強く示唆された。