抄録
【はじめに】放射線の生物への作用機序は放射線のエネルギーが標的に直接与えられ、分子それ自身が変化を受けて電離あるいは励起等を起こして細胞に障害を与える直接作用と、放射線のエネルギーが直接標的に与えられず、他の分子を介して間接的に与えられる間接作用がある。光子放射線では細胞致死における放射線作用は間接作用が主要因となることが古くから知られているが、重粒子線による細胞致死における放射線作用の寄与に関する報告は多くは無い。さらに低酸素下での報告は光子放射線での報告が数例あるだけで、粒子線による報告はほとんどない。本学会では重粒子線がもたらす細胞致死に対する放射線作用別の寄与率を明らかにすることを目的とした。また、得られた結果から、LET-RBE(生物学的効果比)曲線を放射線の直接作用と間接作用別に分け、重粒子線がもたらす高RBEを放射線作用別に解析し、放射線化学的観点から高RBEの機構解明を行った。
【材料・方法】CHO細胞を用いて細胞致死効果をコロニー形成法で調べた。放射線はX線(200 kVp, 20 mA)と放医研HIMACから供給された炭素イオン線(290 MeV)、シリコンイオン線(490 MeV)、アルゴンイオン線(500 MeV)、鉄線(500 MeV)を用い、LET領域は15-200 keV/μmとした。照射時の酸素条件は大気下と低酸素下(< 0.2 mmHg)で行った。間接作用の細胞致死寄与率の算出はDMSO法を用いて行った。
【結果・考察】間接作用の細胞致死に対する寄与率はLET増加に伴い減少する傾向を大気下および低酸素下両条件で確認した。また、RBEを放射線作用別に解析すると直接作用によって得られるLET-RBE曲線は間接作用による曲線より大きいことがわかり、重粒子線がもたらす高い生物学的効果は放射線の直接作用によることが明らかになった。