抄録
造血幹細胞は移植レシピエントにおいて長期に亘って骨髄を維持し、末梢血を供給することが出来る。本研究では造血幹・前駆細胞と考えられているマウスLin-/c-Kit+/Sca-1+(LKS)の長期骨髄再建能を指標に、放射線照射後のLKS細胞の末梢血再生能を評価した。C57BL/6(Ly5.1)の骨髄から、LKS細胞をソーティングし、in vitroで0.5, 1, 1.5, 2 GyのX線を照射した。これを致死線量(9.5 Gy)照射したC57BL/6(Ly5.2)マウスに、Ly5.1/Ly5.2-F1の補助骨髄(2x105)とともに移植し、35, 90, 270日後の末梢血におけるキメラ率を評価した。その結果、LKSの末梢血再生能は線量依存的な減少を示した。しかしながら、長期骨髄再建能を見ると、低線量(0.5 Gy)を照射したLKSでも270日間の長期に亘って維持されていた。放射線照射後のLKS細胞における細胞内活性酸素種(ROS)を測定したところ、LKS細胞では照射によるROSの誘発に抵抗性の細胞を含むことが明らかになった。さらに、100mMのNAC処理によるROS消去を行うと、長期骨髄再建能を有する細胞では放射線照射後のROS生成率が小さいことが明らかになった。興味深いことに、非照射のLKSでも270日に亘る造血維持能に低下がみられ、それは0.5Gyを照射したLKSの造血能と同等であることを発見した。以上の結果は、マウス骨髄において造血幹・前駆細胞と考えられる細胞は低線量の放射線急性照射に対して、比較的抵抗性を示すことを示唆している。