日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第53回大会
セッションID: W4-5
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ワークショップ4 核融合とトリチウム
トリチウム水による野生型とp53欠損型マウスにおける脾臓Tリンパ球の突然変異とアポトーシス効果
*馬田 敏幸法村 俊之
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抄録
 核融合の原料となるトリチウムの産生供給に伴い、作業者のトリチウムによる内部被ばくのリスクが懸念される。また、トリチウムは核融合炉の正常運転、事故時に関わらず環境中に放出される可能性もある。  DNAの2本鎖切断は細胞に致死的障害を引き起こす主原因損傷であり、その修復が完全でなければ後に突然変異を起こし癌が誘発される可能性がある。しかし、生体はゲノム損傷を克服する手段として、DNA修復以外の細胞レベルの修復機構を備えている。この機構は、例えば発生過程の胎仔が放射線被ばくしたとき、損傷細胞をp53依存性アポトーシスで効率的に排除することにより、奇形発生の防御に働いている。この損傷細胞排除機構が抑制されると、間違った修復の固定により突然変異頻度が上昇する。事実、3Gy被ばくのマウス脾細胞のTCR(T cell receptor)遺伝子の突然変異頻度を調べた実験では、野生型p53(+/+)マウスの場合はγ線の線量率を1.2 mGy/minに下げると変異頻度は自然発生レベルになったが、アポトーシス活性を欠くp53欠損型p53(-/-)マウスでは低線量率照射でも変異頻度は自然発生レベルにはならない。  トリチウムβ線は細胞内に活性ラジカルを産生し、これがDNA損傷を引き起こす。トリチウムβ線による低線量率被ばくが生体にどのような影響を及ぼすのか、また、個体における細胞レベルでの修復機構は機能するのか。我々はp53(+/+)及びp53(-/-)マウスを使って、トリチウムによる突然変異の生成とアポトーシスの誘導をガンマ線の高線量率照射およびトリチウムの実効半減期に従って線量率を連続的に減少させるシミュレーション照射と比較した。その結果、トリチウムβ線はセシウムγ線よりもDNAダメージが大きいことが示唆された。
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© 2010 日本放射線影響学会
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